「うん、それなんだが、朝起きるだろう、それで顔を洗って、鏡、見るよねぇ」　「その時の自分の顔が・・・なんだか・・・毎日違っているような・・・そんな気がするんだがねぇ」

『それはたしかに妙な話で』　『で、いったいどんなふうに違ってるんで？』

「昨日は寂しげだったのに今日は恵比須顔、一昨日は目が吊り上がって、狐が泣いたような・・・」　「これって、やはり虫のせいなの？」

『旦那、それは虫じゃあないですねぇ』　『そんな福笑いみたいな芸当が出来る虫なんて聞いたことありませんぜ』　　『こう言っちゃあ何ですが、そいつは御歳のせいでございますよ』

「えっ、これって年のせいなの？」

『年を取ると、瞼や頬や口元の皮に締りが無くなって、垂れたり寄ったりズレたりたりするもんなんで』
『うんうん、降る日晴れる日　垂れる日ずれる日いろいろいろいろ』

『そのちょつとの垂れやずれで瞼が二重にもなれば一重にもなるんで』　『口元だってそうでございますよ』　

「そうだったの・・・・・・で、そう言うお前たちはどうなのよ」「お前たちも年はとるんだろう」

『うちら≪脱皮≫しますんで、いつもつるつる、お肌の苦労はないんでございますよ』

「・・・・・そう・・・・良かったのね・・・・」


『・・・・・・旦那さん、なんなら一度脱皮してみやすかい？』


「ん？・・・・・・・・」　　　　　　「・・・・それって・・・・・痛くない？」



『・・・・・・・旦那さん、今日は結構な名前をありがとうございやした』『火にかけた鍋が気になるんで、きょうはこれで』　『うん、ムール貝のブイヤベース！はやく食べたい食べたい』