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岡本流生清内路通信

自画自解 26 君ありて我あり その2

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自画自解 26 君ありて我あり その2


    おもいのたけのひとかけ  我が心の師父 川上澄生に

私が初めて上野の版画展に入選した時、先生が三年前に亡くなられていたことを知りました。中学生の時に先生の「北海道絵本」をまねて彫ったのが私の版画作りの始まりでした。

小学三年まで室蘭で育ち、東京に出てきた私には、絵本の中の作品を一つ一つまねて彫ることが心の慰めだったのです。 それから四十年、今ほど強く先生にお会いしたいと思ったことはありません。 

今、木版画の道をひたすら歩む覚悟を固めて、ふと周りを見回すと、心から木版画のことを語り合いたい人々は皆先生の世界へ行ってしまわれました。寂しい思いです。 十代、二十代の時に先生のお宅に伺う知恵と勇気が無かったことが悔やまれます。

私はこのごろ自分を“遅れて来た川上澄生”だと思うときがあります。木版画が好きで好きでたまらないと言う気持ちの在りかたがそう思わせるのです。 その意味でも私は先生の播かれた種の一粒なのです。

先生が一生の多くの時間を教壇に立たれたように、私も小さな学習塾で教えるという生活と時間に追われる暮らしです。 でも、先生のように時代におもねず、他人の言に惑わされず、ただただ自分の好きな絵を彫り続ける覚悟です。

自分という一粒の種が何故この世に播かれたのか、どんな花が咲くのか咲かぬのか、そしていつか誰か(それは昔の自分のように寂しい少年であれば良いのですが)に、喜びを与えることができるのかを知るためにも。

いつかそちらの世界で、先生や諸先輩の方々と胸中の想いを語り合える日を楽しみに、それまでの今しばらくのお別れです。

                          平成十四年九月一日
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