19.ブリキの玩具 No.3 シリーズ「ブリキの玩具」より 2013年 9版
初恋シリーズも50点になろうかと言うころです。中学生の時から十年以上にわたってそのモデルを務めてくれていたSちゃんが結婚しました。 招かれた式で、純白のウエディングドレスに身を包んだ彼女に迎えられたときには、そのあまりの美しさに息をのんでしまいました。
最愛のモデルを失ったことに加え、シリーズのあまりにも張り詰めた、緊張の連続を強いられる彫りにも疲れていた私は、しばらく初恋シリーズから離れ、他の作品を作ることしたのでした。 できれば版画を始めたころのように楽しくやりたいものだと。
初心に帰ろうと、川上澄生の画集をめくっていた私の目を捉えたのが、澄生の玩具を描いた作品でした。 私も玩具をやってみよう! それもブリキの玩具を! 玩具なら、初恋のように、まつ毛や髪の毛や指先と言った繊細な彫りに神経を擦り減らすことも無いだろうし。 何より楽しそうじゃないか。
こうして始まったこのシリーズの原則を、前もって決めました。彫りはそこそこの程度で無理をしない。色は原色を多く用い、明るくポップに。そして摺りでも、ぼかしなど煩わしいことは止め、単純にいこうと。
これまでに完成したのは8点。 狙い通りの明るく楽しい作品になったと思います。また、1点で見るよりも、何点か並べてみるほうがよりこのシリーズの良さが出るようにも思います。
さて、休息は十分! 気力も充実! そろそろまたやっかいな仕事に戻ろうかな。
ただ・・・・モデルはどうする?